卓球と水着

競泳において水着の問題が取りざたされています。技術力の進歩が選手のポテンシャルを引き出す側面に拍車をかけているためでしょう。別に水着で勝つわけではなくて、やはり、最終的には練習したものが勝つのです。とはいえ、水着間の格差が激しければ問題なのかもしれませんね。

卓球という地味なスポーツでも同じことが言えます。主として、ラケットに張るラバーの問題です。最近になって卓球のルールが改正され、ラバーについて厳しい制限がかけられました。この制限がないと、卓球という競技は、もはや人間の能力の限界を超えてしまうからだ、と単純視しても良いでしょう。
考えてもみてください。超一流の卓球選手の打球は時速150キロにも達します。プロ野球の投手の球速と同じほどです。野球であれば、マウンドとバッターボックスとの間の距離があり、優秀なバッターはなんとか反応しているわけです。卓球では、あの狭いコート両エンドの間の短い距離を打球が飛んでくるのです。しかも。野球の打撃ではストライクゾーンにボールが来るのを、打者はほぼ同じ姿勢で待機できますが、(微調整はするでしょうが)、卓球にはストライクゾーンがありません。狭いはずの卓球のコートが、恐ろしく広くなるのです。右サイドを待ち受けて左サイドに打球がくれば、人間はそれを拾えません。ピッチャーの投げる球が暴投であっても必ずバットに当てなくてはいけないほど、いや、それ以上に、卓球でラケットにボールを当てることは難しいことだと思われます。だめだしを試みます。卓球では、相手の打球を打ち返すまでに下手をすると0.3秒ほどしか猶予があたえられないことさえもあります。肉体内の神経に情報が伝わるスピードを考え合わせますと、そもそもついていけないはずなのです。卓球選手は、頭脳も鍛えていますから、反射神経のみならず、戦術思考も組み合わせながらですが、運動神経を使ってプレイしています。なんと恐ろしいことでしょう。ちなみに、一般人が何かを認識して、それに反応しようと思っただけで既に0.3秒ほどは消費してしまいます。
さて、現代におけるラバーの進歩にはすばらしい発展がありましたので、ボールのスピードは肉体の運動をそのまま乗せることが可能になりました。そのため、テニスにみられるような、ボールの打ち合いといったスリリングで見ていてわかりやすいプレイもできません。卓球でドライブの引き合いが5本6本と続くことはほとんどありません。一瞬で勝負がついてしまいます。したがって、ラバーの反発力や粘着力などの規格で厳密に制御してやらねば、プレイしている側も、観客側も、ついていけないスポーツになりつつあったのです。
最近になって行われた横浜での世界大会では新ルールのもとでの大会になったのですが、選手の皆さんはきちんと対応し、すばらしいプレイを観客にみせてくださいました。まことに面白いことに、ラバーの制限が果たされたにもかかわらず、プレイそのものはかえって進化したようにも思われます。卓球はますます面白いスポーツになっていくことでしょう。
水泳競技と卓球とでは、制限の根本思想が異なりますが、使用されるツールについてのコンセンサスの確立において、水泳では味噌をつけており、卓球では成功しているといえます。各競技の団体での内部調整がオープンで十分に論議されてっていされているかいないかの違いが出てきているかと思います。

※スピードが速過ぎるので、卓球の面白さが、一般の人たちには理解できないことも多いかと思います。そういう意味では、アメフトのように、ゆっくりと、ビール片手に戦術を考えながら監督気分で見る楽しみを、卓球は未来永劫、得られないかもしれませんね。不幸なことです。せめてバドミントンなみに見ていて面白ければいいのに。あれはコートが広いですからねぇ。うんにゃ、卓球は自分で体を動かす競技なのですね。温泉卓球オッケー、万歳!
それでいいのだ。