量子暗号の原理にセキュリティホールがあるのか(3)

ステファン・ウォルボーンらの実験をこのように理解

前回、同実験について詳細を述べずに手前勝手な結論だけを書いたので自分のためにもまとめてみるテストです。ほぼ同型の実験環境を書いてみます。

実験の肝1

1対のEPR対の光量子を受け取るアリスとボブ。ここでEPR対は、直線偏光を元に、片方が垂直偏光ならば片方が水平方向とします。気をつけなくてはいけないのが、1対のEPR対の片方が、垂直になるか水平になるのかは観測するまで人間は知ることができないというところです。アリスが片方の光量子についてその偏光を観測した瞬間にボブが観測する偏光の結果が確定します。アリスなりボブなりが観測する以前には、系の光量子の偏光という物理量は確定していません。状態の重ねあわせになっているというわけで。これ、量子力学での全うなコペンハーゲン解釈

また、上記系では、アリスが観測する偏光方向とボブが観測する偏光方向は100%の相関(こっちが垂直ならば相手は水平、その逆も)が期待できます。これで量子鍵の共有を図ろうというのがアーター・エカート型の量子暗号。

ここで、従来解釈では、アリスからボブへの時間や距離を気にしない信号送出は無理、と言われてきました。なぜなら、アリスは自分が観測する片割れの光量子の偏光方向を指定できないからです。(指定できたらもちろん通信できますけれどね。)

でも、アーター・エカート型の量子暗号について思い起こせば、そもそも1対だけでは成立せず、多量のEPR対を連続して使うわけで。そうでないとワンタイムな暗号鍵の共有なんて考える必要がないですし。

実験の肝2

今度は、有名な二重スリットについて考えちゃう。光量子の干渉について確認済みのもので、これで光って波動なんだよねぇ、と改めて量子力学的に確認するわけですよね。詳しいことは物理の本にでも適宜まかせるとして。

二重スリットの実験で興味深いことは、光量子が、スリットのどちらか一方を通過したことを人間が知ることが出来てしまうと干渉が消えるという事実なんですね。 たとえば、光子を1個ずつ射出するとして、その度に、ランダムにスリットのどちらか一方の片方の穴をふさいじゃう、とかすると干渉縞が消えてしまう、このこともシッカリと実験結果で何度も何度も確認されているのですよね。両方穴があいている時だけ、干渉縞で出来上がる。これ、光は波動だと考えて両方の穴を通過する波同士が干渉しているとしか思えないジャン?という。

実験の肝3

ウォルボーンの実験のスゴイところは、上の肝1と肝2とを組み合わせて確認してみましたぁ、というところ。EPR対の片方をアリスに、もう片方をボブに渡し、ボブ側で二重スリットの実験を行うよ、アリスちゃん側で光の偏光状態を観測すると、ボブ側の二重スリットの二つの穴のどちらを光子が通過しちゃったのかが人間に知れてしまうので、干渉縞が消えてしまいます、というなんとも面白そうな実験であります。 ボブ側の二重スリットの構成が素敵なんだよね。

実験部品(ボブ側の二重スリット)

検出器2

平たい板だと思っても構いません。光子がどこにあたりのかがわかります。干渉縞が出来るか出来ないかがわかるように。 ここでさらに一工夫を。 この検出器は、光子が1個当たる都度、その光子の円偏光状態が右偏光か左偏光かが判定できるのです。 いやぁ、こんな検出器が実在するなんて、素敵ですね。

二重スリット

普通の。 ただし、後で説明するフィルター(2種類)が、二つの窓のそれぞれにくっつけられるようになっています。

フィルター(右用)

垂直偏光している光子を円偏光に変身させちゃうフィルター。考えてみると1個の光子にでも偏光があるなんて不思議だけど本当なのだ(バカボンのパパ)。もすこし考えてみると、この偏光子が光子の純粋状態を破壊せずに(つまり観測してしまって混合状態に移行せずに)こんなことできるなんてね、なんとも素敵であります。でも本当なのだ。よく使われる部品。

あ、いけない、説明が足りません。フィルター(右用)なので、次のようにしておきます。すなわち。

垂直偏光している光子を右まわりの円偏光の光子に変え、水平偏光している光子を左まわりの円偏光の光子に変えます。

フィルター(左用)

垂直偏光している光子を左まわりの円偏光の光子に変え、水平偏光している光子を右まわりの円偏光の光子に変えます。
さっきと逆ナリヨ。

実験部品(アリス側の素朴な仕掛け)

検出器1

機能は、届いた光が、垂直偏光なのか水平偏光なのかを検出することだけ。

ランダムフィルター

この実験で素晴らしい効果があるフィルター。はいってきた光子が垂直偏光の場合、ランダムに50%の確率でもって、出てくる光が垂直偏光もしくは水平偏光に変身します。また、はいってきた光子が水平偏光の場合、ランダムに50%の確率でもって、出てくる光が垂直偏光もしくは水平偏光に変身します。要するに、入ってきた光子が出てくると、人間には、もともとどの方向の偏光だったのかがわからなくなってしまうというスグレモノなのであります。 いやぁ、こんなものがあるなんてねぇ。ま、考えてみるとアリガチな単純な部品かも。

実験部品(アリスとボブの共有部品)

光子発射装置

エンタングルメントなEPR対の光子を1対ずつ発射する装置。多数の対を連続発射可能。1対は、片方がアリス側に発射され、片方がボブ側に発射されまする。光子はそれぞれ直線偏光で、ただし、片方が垂直偏光ならば必ずもう片方が水平偏光。アリス側に垂直もしくは水平のどちらがいくのかは、アリスが観測するまでわかりません。

実験機器の組み立て

まず光子発射装置をでぇんと据え付けます。1対のEPR対の片方はアリス側に発射され、もう片方はボブ側に発射されます。

アリス側光路では、最初は検出器1に光が到達すればよいだけにしておきます。つまり、ランダムフィルターは、その辺に投げておきます。のちほど、ランダムフィルターを光子発射装置と検出器1の間に据え付けられるようにだけしておけばオーケーです。

ボブ側光路。まず、検出器2に光が到達できるようにします。で、適宜調節して、光路の真ん中あたりに二重スリットを据えます。なんの工夫もしないでたくさんの光子が通過すると干渉縞が検出器2に出来上がるように。次に、二重スリットの右側の穴に、フィルター(右用)を嵌め込みます。あまた、左側の穴にフィルター(左用)を嵌め込みます。

大事なことですが、最初はアリス側の光路がボブ側の光路に比べて、多少短くしておきましょう。光子発射装置から光子が発射されたときに、アリス側の検出器1の方に先に光子が届くように。これ、実験の脅威的面白さの肝心なところです。

第一回実験

それでは実験機器が組みあがったので、第一回実験を行います。
光子発射装置をスイッチオン!しばらく放置。
で、結果はどうなるかというと。ボブの検出器2には、干渉縞が出来ません。

第一回実験の考察

干渉縞が出なかった理由を簡単に。ボブの二重スリットのどちらの穴を光子が通過したのかを、人間なり実験装置全体なりが(どちらでしょう?)、知ってしまっているからです。これでは干渉縞が出来るほうが不思議です。ありえないですね。
EPR対の性質により、アリスが検出器1で調べることが出来る偏光状態によって、ボブ側の光路に突入した光子が最初はどんな偏光状態であったのかを人間は知ることが出来ます。アリスが水平ならボブは垂直、という具合に。仮に、ボブ側で垂直ということにしましょうか。スリットに装着したフィルターによって右側の穴を通過したならば光は右まわりの偏光に、左側の穴を通過したなら左回りの偏光になることでしょう。ここまでではまだ、どちらの穴を通過したのかは不明なのですけれどね。さて、ボブ側の検出機2に光が到着するやいなや、検出器2は、光が右偏光なのか左偏光なのかを知ってしまいます。論理の帰結するところにより、検出器2はスリットの穴のどちらを光子が通過したのかを判定できることになります。
仮に、ボブ側で最初に垂直ということで考えましたが、水平でも同じことですね。かくして、ボブ側機器では、二重スリットのどちらの穴を光子が通過したのか判定できてしまいますので、量子力学の要請により、干渉縞は出現しません。

頭のヨイ実験ですね。

第二回実験

さらに頭のヨイ実験になります。

捨て置いていたランダムフィルターを予定の場所に据えます。つまりランダムフィルターを光子発射装置と検出器1の間に。

光子発射装置をスイッチオン!しばらく放置。
で、結果はどうなるかというと。ボブの検出器2には、干渉縞がものの見事に綺麗に出来上がります。

第二回実験の考察

あのですね、解釈は次のようになります。アリスの検出器1は、光子の偏光状態を知ることは出来ません。なぞのままなのです。素晴らしいランダムフィルターのおかげですね。実験機器全体は、あるいは人間は、ボブの二重スリットのどちらの穴を光子が通過したのかを判断出来ません。だから干渉縞が出現したわけですね。

第三回実験

ここで恐るべき三回目の実験を。狂気の沙汰です。
最初に、アリス側光路が、ボブ側光路よりも短くしておいたことを言っておきました。第二回目までの実験はそのようにしておいたのです。
今度は、アリス側光路が、ボブ側光路よりも長くしておきます。それも、ランダムフィルターと光子発射装置との間の距離をボブ側光路よりも長くです。

光子発射装置をスイッチオン!しばらく放置。
で、結果はどうなるかというと。ボブの検出器2には、干渉縞がものの見事に綺麗に出来上がります。

第三回実験の考察

私にこの恐るべき実験結果の解釈が出来るわけがありません。宇宙ってこうなの?と絶叫するだけです。いや、我慢我慢。冷静に。

ボブ側の検出器2で個々の光子が干渉縞を作るための衝突を迎える時点で、アリス側のでは、まだ、光の偏光状態を知るか知らないかまで到っていないのですから。

これが量子世界における非局所性の恐ろしさですよね。

ステファン・ウォルボーンらの実験の応用

さて、上の実験結果は実際にそうなってしまっているという報告なのでしかたがありません。量子力学の正統的解釈の予言する通りですしね、たぶん。

で、私はへそ曲がりなのでセキュリティホウルを見つけたいわけです。ステファン・ウォルボーンらの実験の応用で、超光速な情報通信を行えるのでは?ということです。

もう一度。従来解釈では、アリスからボブへの時間や距離を気にしない信号送出は無理、と言われてきました。なぜなら、アリスは自分が観測する片割れの光量子の偏光方向を指定できないからです。(指定できたらもちろん通信できますけれどね。)

でも、多数のEPR対でもって、ボブ側の干渉縞を現出させたりさせなかったりをアリスがコントロールできるとしたならば?

簡単でしょ? さっきのランダムフィルターをつっこんだりはずしたりすればよいのですから。

このランダムフィルターの挿入排除の方法を適当なプロトコルであらかじめ設定しておいてアリスとボブが共有すれば、立派な通信手段になること請け合いでしょう?

そして、EPR対の量子的な非局所的相関は、時間や空間を越えていることに思いをいたせば・・・

ステファン・ウォルボーンらの実験の応用はうまくいくはずがない

アインシュタインの想定した宇宙の因果を破壊してしまうことになります。いったいどこが間違ったのでしょう?

量子力学の正統解釈がどこかおかしい・・・ひいてはそれに依拠するところの量子暗号なんて、まだまだ基礎的な理解がおよんでいない可能性があるのではないか・・・など考えたいことはいっぱい出てきます。

たとえば・・・ライトコーンの外側まではEPR相関は到達しないのだ・・・とか、今まで考えられていないことまで・・・・

それとも、非局所性は破れるのかもしれず・・・

結語

例によっていいかげんで眉唾なhoshikuzuですから、ここまで書いたことは無保証です。なんちて。ただ、私はこれらの妄想でもってずいぶんと楽しみました。
ちゃんとした解釈を教えてくれる奇特な方を大募集しています。たとえば、ステファン・ウォルボーンらの実験をいくら追試しても同じ結果が出ないよ?とかいう情報と、ステファン・ウォルボーンらの実験の嘘はここにあるとかの情報とか。

おながいしまつ。

*ごめんなさい
ここまで一挙に書いて、読み直していません。あとで誤字や脱落などあったら修正しますです。