聖書の分子進化と進化系統樹

エス登場から新約聖書の成立期にかけて、聖書はさまざまな人間の手により、写本が作られました。 人間が書き写すわけですから、元となる写本とは別の写本が出来上がることもあります。単純なミスもあっただろうし、写本作成者による意図的な変更もあったことでしょう。このような写本間の差異を「異読」といいます。 現在、発掘発見された写本の数は膨大です。そして「異読」の数も膨大なのです。「異読」を全て数え上げると、聖書に書かれている語数を軽く超えてしまうそうですから、大変な数になります。
キリスト教からしてみると聖書は神聖で神の言葉が記されているはずなのですから、これらの異読の数の大きさは問題であるはずです。(多くのクリスチャンは膨大な異読があることは教えられていません)
さて、古来よりマジメな聖書学者達は、異読を研究し、復元し、オリジナルな写本像を得たいと願いました。そんな
中、近世になって、写本の進化系統樹を作るというアイデアを実行した人がいたようです。方式は生物の分子進化系統樹作成方法とほぼ同じです。DNAなり遺伝子なりの差異を利用して生物間の差異に着目して生物学者たちが分子進化系統樹を作ったように、聖書学者達は、異読を元に聖書写本の進化系統樹を作成することが出来るのです。
実はアイデアとしては、聖書学者たちのほうが早かったかもしれません。
生物の場合には、系統樹の根っこ(ルート)はたったひとつであることが期待されますが、写本群では、根っこは複数あることが考えられます。そのことを考え合わせながら研究した結果として、有力な写本群が認められ、恐らくオリジナルに近いであろうと考えられています。