相対論だ、亜光速の銀河鉄道999 PART2

2つの慣性系XとYとを考える。
各慣性系は、おおまかに言うとホチキスの針状の形をした車両で、全く同一の形状であった。おのおの中央の直線部分は車両本体。車両の先端と終端に車両本体の直線とは垂直に直線状のアンテナが装備されている。銀河鉄道は複線で上り線と下り線とで平行にレールが施設されている。で、相対速度が亜光速で上りと下りとの2組の車両がすれ違う。すれ違うとちょうど、列車のアンテナは対向してきた列車のアンテナと接触する。羽の感触のようなフェザータッチのような接触なので、アンテナは触ったことだけを認識でき、列車本体に負の加速度を与えない。従ってすれ違ったとしても2つの慣性系列車は依然として慣性系のままとする。
今、観測者であるあなたは慣性系Xの車両に乗車している。当然ながら、自らは静止系にいると判断できる。あなたからしてみると対向のYが動いており、相対速度が亜光速にてすれ違うのだ。
さて、観測者たるあなたが乗っている列車Xの車両中にテロリストからの犯行予告声明が出てきた。声明によれば、Yに爆弾が設置されていると言う。爆弾は丁度列車Yの中央に設置されており起爆スイッチは列車Yの終端のアンテナだという。Yの終端のアンテナがXの先端のアンテナに接触すると爆発開始信号が発火し、通信線を伝わってYの列車中央の爆弾に届きかくして破裂するのだと言う。一方、声明によれば、Yの先端のアンテナがXの終端のアンテナに接触した場合には爆発停止信号が発火し、通信線を伝わってYの列車中央の爆弾に届き、以後、爆発開始信号が届いたとしても爆発をまぬがれると言う。爆発開始信号と爆発停止信号が爆弾に同時に到着した場合には爆弾は破裂しないとも言う。犯行予告声明の図面を詳細に調べた結果、列車Yの爆弾への先端アンテナからの信号伝達時間と終端からの信号伝達時間は全く同じであるとわかった。
残念なことにこれからすれ違うはずの列車Yには事態発生の通信連絡がとれない状況であったし、列車Xが停止してもYが走行を続ける以上、いつしか両列車はすれ違うことは明らかだった。Xの運転士はさっそく列車を停止したのだが。いかんせん、両列車のアンテナは取り外すこともできないので、いつかは両列車のアンテナが接触することは不可避であった。
さて、ニュートン力学によれば、両列車のアンテナが接触するのはXの先端がYの終端、あるいはXの終端がYの先端、の両方において、同時である。従ってニュートン力学の予言するところでは、Yの爆発制御信号は爆弾に【同着】であるので、爆発は回避される。
ところが観測者であるあなたはアインシュタイン相対性理論を勉強したことがあるので容易に次の事柄を予測できた。
『列車Yはローレンツ短縮している。長さが短く観測される。すなわち、すれ違う場合に、列車Yの終端が当方Xの先端に接触する時刻は、列車Yの先端が当方Xの終端に接触する時刻よりも、早い。図面を書いてみよう。これは古典的なニュートン力学の検知で、当方Xの列車の長さが列車Yの長さよりも長い場合と同じだ。このような状況ですれ違えばYの終端のアンテナがXの先端のアンテナに接触するほうが、Yの先端のアンテナがXの終端のアンテナに接触するよりも早いことになる。すなわちYはすれ違いざまに爆発し、私の乗っているこの列車Xも巻き添えを食って爆発する。』
あなたは落ち着いてもう一度考えてみることにした。
『まてよ?アインシュタインの相対性原理によれば、静止系列として爆弾の搭載された列車Yを取ることが出来る。列車Yに乗車している客からしてみれば、当方の列車Xこそがローレンツ短縮をしているはずだ。すると?Yの先端がXの終端に接触する時刻のほうが、Yの終端がXの先端に当たる時刻よりも早いはずだ。図面を書いてみたがどうやら間違いなさそうだ。ならば当然の帰結として爆弾の爆発条件は解除される。』
あなたは列車Yが爆発する演繹と爆発しない演繹との両者を考え付いてしまった。はたして列車Yはすれ違いざまに爆発するのだろうか?それとも爆発せずにあなたの命をはじめ多くの人命は助かるのだろうか。
…以上は大学の時に友人なら教わった問題。互いに同等な慣性系の複数の観測者にとって爆弾が破裂するしないの因果関係が不一致になることはありえまい、どのように解釈したら良いのだ?という問いかけである。固有時の不思議さをしっかり学ぶためには良い例題かもしれない。