非可換幾何学による相対論の拡張

我々の住む宇宙がローレンツ変換不変な(ミンコフスキー)時空であることを要請する特殊相対論は、マクスウェルの電磁気理論を拡張してニュートン力学を併呑したものだ。特殊相対論の二大原理は言うまでもなく以下で記述される。

  1. 運動の相対性
  2. 光速度不変
量子力学の枠内で構築されたワインバーグ・サラムの素粒子標準モデルももちろん、これらの相対性原理の上に立脚している。電磁気理論の後裔だ。強い相互作用もまた、標準モデルを拡張した形での理論で説得力のある説明がなされている。だが、この路線で拡張していっても、どうしても重力理論との整合性がとれない。重力場量子化には定説ができあがっていないし、超弦理論も行き詰まっている。宇宙論にも大きな謎が横たわり天文学による観測を十分に説明できていない場合が少なくない。あたかもマクスウェルの電磁気理論の子供たち(つまりゲージ理論だ)は、重力場との親戚付き合いを嫌っているかのようだ。相対性理論量子力学のあいだの深い溝を照らし出す照明が必要のようだ。はたして、渡ることのできない溝の原因はなんだろうか?
そもそも、上にあげた二つの相対性原理は、量子力学の基礎的な構造であるプランクの長さを不変に保っていない。ここに問題があるのではないか?一部の物理学者はそのような論を立てる。プランクの長さを不変に保てない理由は、マクスウェルの電磁気学理論による、と言い切っても過言ではないし、この宇宙が(重力場を無視できるとして)ローレンツ(ミンコフスキー)時空的であるとした従来理論と、プランクの長さの不変性とが相性が悪いのだ、とも言い換えることもできる。そこで、従来理論の基礎となっている特殊相対論を上書き修正することが必要なのかもしれないと予想を立てることが可能だ。まずはプランクの長さの不変性を要求するのである。必要な原理は以下の通り。
  1. 運動の相対性
  2. プランク長の不変
  3. 光速度不変の近似的実現(低エネルギー下で実現)
ところが、従来型幾何学では、新しい上記の要請原理を満たした美しい幾何学を構築できない。ミンコフスキー時空に内包された限りなく美しい対象性を損なうのだ。そうした汚い時空の上では、万物の事象を説明できる美しい理論は導出できない。
驚くべきことにコンヌの非可換幾何学を使うと、上の新しい三つ揃いの原理を満たす時空を、ごくごく自然に美しい姿で構築できるという。
低エネルギー下でマクスウェル電磁気学と一致し、高エネルギー下で光速度が増大する (初期のインフレーション宇宙期に相当、この新しい理論母体ではインフレーションは不要である可能性が高い ) そうした場の理論が非可換幾何学による記述で自動的に正しく導出され、必然的にプランク長さ不変である新らしい「相対論的」量子力学の基礎足りうる。
量子力学場の理論の結婚にとって、この差は非常に大きい。ワインバーグ・サラムの理論がマクスウェルの理論の子供であるように、プランク長不変な新相対論(拡張された電磁場理論含む)の枠組みが、新しい量子場の理論の基礎になるかもしれない。 やがては一般相対論=重力場理論を併呑し・・・時間の矢の謎を解決することだろう。 物理学の黄金時代が来るかもしれない。
楽観的に過ぎるかもしれないが、非可換幾何学の発展には未来を感じる。