無意識のサイドチャネルアタック

私がパソコンに興味を持って使い始めたときには既にコンピュータゲームは市場が形成されていました。私は趣味が悪くて、流行のゲームよりもオールドスタイルなゲームをよく好んで遊んだものです。視覚にちょっと弱点をかかえているのでテキスト中心のほうがありがたかった、という理由も影響しているかもしれません。
そんな私ですがゲーム専用のコンシューマ機で初期パソコンRPGの傑作であるウィザードリーの復刻版を遊び倒しました。テーブルトークRPGの先輩からもウィザードリーでの戦いのツボについてあれこれ指導を受けたり、古きよきパソコン時代のウィザードリーのマップを入手したりと工夫を重ねたものです。先輩はどうやらマッキントッシュよりも古い時代のパソコンで遊んでいたようですが、(リサ?アップル?)そんな先輩から恐ろしいことを聞いたものです。今から振り返るとそれは立派なサイドチャネル攻撃だったのです。
先輩の話を思い出しますと、初期パソコン版のウィザードリーは8ないし5インチのフロッピーディスクを2枚組み程度?で供給されていたのだったと思います。ウィザードリーは戦闘中心のRPGで10層ある地下迷宮を探索しボスキャラを倒すことが当初の目標なのです。敵モンスターを倒すと運がよければ宝箱が出てきます。この宝箱は、開けてみるまでは何がはいっているかわかりません。敵意ある仕掛けがはいっているかもしれません。毒針などが仕掛けられていれば、下手にあけると被害を受けてしまいます。あるいは別のトラップで麻痺状態になると本当に大変です。そんなわけですから、宝箱を上手に開けたりする職業や、空ける前から中身が何であるかを知るインスペクト技術を持つ職業が、チームの中に必要となってくるわけです。宝箱をうまく処理できれば店で売っていないような優れた武器や防具などもゲットできるため、この魅力には勝てません。とまぁ、ここまでは普通の話です。
さて、先輩は、たとえば、ゲーム上最も強力な武器であり武器店では入手不可能な「カシナートの剣」がはいっている宝箱を、開ける前から認識することができたそうです。どうしてわかるかというと、戦闘終了後に宝箱が出現する直前にフロッピードライブが駆動する際に出す音を聞き分けていたのだそうです。カシナートなどの情報は特定セクタに格納されているようで、そこにアクセスする時には、特別な音を出すのだそうで。それをプレイヤーは耳で聞き分ければよい、ということに。
このとんでもないお話を聞いて当時の私は笑い転げました。すばらしい! とはいえ、任天堂のゲーム機のカセットでは応用が利かないテクニックでしたから私自身ではそのテクニックの検証ができませんでしたが、いにしえの8インチフロッピーならば、さもありなんと…
サイドチャネル攻撃が実際に身の回りにあったよ、というお話でした。

※余談。ウィザードリーの風変わりなところは、ラスボスを倒してもなお、ゲームが終わらないという点にあります。もはやひたすら自分のパーティの各キャラを育てていくだけなのですが、ラスボスを倒したころには既に、はまっている状態、中毒になっている状態なんですね。武器や防具などのコンプリートを目指すとかも面白いわけです。そうなってはじめて、かの先輩の技が編み出されるわけです。いったいぜんたいどのくらいの数の宝箱を開ければ、めったに出ないカシナートの剣のはいった宝箱のアクセス音を聞き分けられるようになるのかしらん?