バクチ
- 森の石松
- 旅ぃ行けぇばぁぁぁぁ 駿河の国にぃ 茶の香りぃぃぃぃ 名代なるかな東海道ぉぉぉ、名所古跡の多いなかぁぁぁぁぁぁぁ。 松と並んでその名を残す、遠州!森の石松のぉぉぉぉ、苦千万のお粗末をぉぉぉぉぉぉぉ、時間来るまでぇぇぇ、勤めぇぇぇぇましょぉぉぉぉぉぉぉ。
- 江戸っ子だってねえ、寿司喰いねえ。
- 清水の次郎長
- 違うぞ?俺は清水港(しみずみなと)の生まれだがそれが何か?
- 石松
- お?親分、そんなこたぁわかってらい。ところで船旅、暇をもてあそんでいる風情、一丁バクチでも?
- 次郎長
- てめぇ俺に勝つ気でいやがるな?俺の運気はてめぇより遥かにでけぇこと、てめぇの骨身に沁みるまで、教えてやったはずだぁぁぁぁ!
- 石松
- ぐへへ。親分、サイコロを2個出してくだせぇ。
- 次郎長
- おうよ! 仕掛けはないぜ!ほれ。
- 石松
- ぐへへ。親分を信じますぜ。グラサイ(イカサマなサイコロ)じゃぁねぇってことは親分の目の色見りゃぁ判りますんで。
- 次郎長
- ふ。運気がでけぇ人間はイカサマ無しでも勝つんだよ
- 石松
- へっへっへ。初めて親分に勝てる気がしてきやしたぜ。この石松の出目は三と五にしやしょう。親分の出目は丁!二と四と六でさぁ。
- 次郎長
- ん?
- 石松
- ぐへへえ♪ピン、すなわち出目が一ならば引き分けでさぁ。
- 次郎長
- ほほぉ?俺が有利ってわけかい?
- 石松
- そうでさそうでさ♪ サイコロを2個振りやしょう。親分の出目、二、四、六が両方のサイコロに出たら親分の勝ち、どっちか一方でピン(一)が出たら引き分け、オイラの出目、三、五がうっかり出ちまったらオイラの勝ちでさぁ。おっと、両方のサイコロで三、五が出たら、引き分けでよござんすよ。
- 次郎長
- めんどくせぇなぁ。サイコロにシールを貼ろうか?ん?6面あるからな、○のシールを3枚張ろう。△のシールを2枚張ろう。×のシールを1枚張ろう。
- 石松
- さすがぁ親分だぜ! それでようがす。そんな2個のサイコロを振って、○○なら親分の勝ち、○△ならオイラの勝ちとしやしょう。△△は…特別に引き分けにしやしょう。○は3枚、△は2枚シールが貼ってありやすからねぇ、親分の分(ぶ)がいいに決まってやさぁ。△△か、ピン(×)が出たら、引き分け、掛け金は次回繰越でようがすね?
- 次郎長
- ふ。受けてやるぜ。掛け金は1回の勝負あたり一両にしようか。ふふふ。
2人は寿司を喰うのも忘れ、船の上で100戦ほど勝負とあいなりましたが、石松が相等に儲けてしまいました。次郎長が全てを知った上でワザと負けてやったとも知らず、石松はホクホク顔です。ま、確率論からしてほぼ必然なのですけれど。
読者のみなさんも、この博打ネタで誰かをハメて儲けてくだせぇ。