卑奴母離の意味について

お雛様は女神

日本語の起源について詳細な研究を極めた村山先生が、南島諸語の祖語のひとつとして、*binai という推定単語を掲げたことがあります。ビナイと発音していいです、はい。日本語に南のほうから極めて多くの語彙がやってきていたとしますが、この*binaiもそのひとつです。*binaiは、日本語においては一方において「をみな」(翁がじいさんならば「をみな」はばぁさん)、この流れでは「をんな」(女)という言葉も出てきますが、もう一方において旧仮名遣いでいう「ひひな」(雛)に受容されたとします。なお「ひひな」は、ヒイナと発音します。おひなまつりのお雛様の雛が「ひいな」です。
さて、南島語圏のひとつであるポリネシアの神話にて、hinaという単語が出てきます。hinaはヒナと発音してよいです。このhinaの意味なのですが、女神、妻、娘、の意味を持ちます。神話では女神ですね。ですから、お雛様という言葉は女神という言葉と親戚だったのです。

卑奴母離

魏志倭人伝には、倭王卑弥呼支配下にある諸々のクニのいくつかに宮(かん)がおかれています。官のなかでも目立つのが卑奴母離です。ヒナモリと発音することが通説となっています。後に万葉集で使われた万葉仮名から発音を推定しているのです。
この卑奴母離なのですが、おおむねどの学説を拝見しても、その意味合いとして、辺境を守る軍事力を司るものとしています。鄙(ひな)びた田舎を守るんだという官名だというのですね、この読みは、邪馬台国九州説にとっては少々スワリが悪いわけです。卑奴母離が置かれたクニが邪馬台国の近くにあってはマズイだろう、という意見があるからです。それでは鄙びていないと。実際、 夷守 ( ひなもり ) という単語が、都から遠く離れたところへの守備を行うヒトとして頻出しています。卑奴母離が夷守なら、邪馬台国大和説のほうがスワリがいいわけです。有力な証拠といってよいですね。
で、私なりに九州説を補強できないかと考えたのですが、卑奴母離は雛守であったとしてみたいのです。上で雛は女神のことであったかもしれないという説をご紹介したわけですが、この雛を守るための官が卑奴母離であったと。言葉を変えて言えば、女王卑弥呼が都とする邪馬台国を守るために属国化している他のクニグニに卑奴母離を置いたとしたいのです。これならば、朝鮮半島から九州のどこかにある邪馬台国までの主要なルートの道すがらのクニに雛守を設置しているという推理さえ成立しうることでしょう。けしてイナカを守るのではない、だからけして大和説に有利ではないと。
この仮説は今朝おもいついたのですが、まだ検証すべき点があります。雛のヒという発音が鄙のヒという発音と八母音における甲乙の点で一致しているのか、という検証がまず第一にしなくてはいけないことでしょう。でも私にはその力がありません。鄙のヒは甲音。卑も甲音とされていますので…雛はどうなのかと。恐らく大丈夫ではないかなというのが感触としてあるのですが検証できません。

そのほか

…南島語起源の言葉が他にもあるならば魏志倭人伝のヨミでもっとすごいことが出てきそうです。今ターゲットにしているもののひとつが他ならぬヤマタイの語源です。これが記紀神話に出てくる、とある重要な単語と、意味が一致してくるのだというオハナシなのですが…近いうちにまた書きたいと思います。けして、ヤマタイはヤマト(大和)ではない、だから九州説でいいのであって大和説には不利だという按配です。
…あ、そうだ、敵国の男王である卑弥【弓】呼のいわれについても、これがまた記紀に…これもまた別項を立てなければいけませんね。ちょっと前に書いたヒルコじゃないですよ、スサノオに倒されたとされる食神のことなのです…