連立拡散方程式の奇跡

物理学でよくみかける基礎的な方程式には派閥があって、波動方程式チームと拡散方程式チームとは、有力な二大派閥だ。
ちょうど放物線と双曲線とのあいだがらのように、波動方程式と拡散方程式は、まるっきり違うようでもあり、なんだか似ているようでもある、そんな不思議なあいだがらだ。
物理的なイメージでいえば、かたや波動を取り扱うのであり、かたやブラウン運動のようなものをとりあつかうのだから、なんだか縁遠いような気がしてもしかたがない、というかそれが常識というところだろう。
1931年、量子力学の始祖のひとり、シュレーディンガーは、量子の世界の解明のために自らが作った波動方程式にイヤケがさして、まったく別のタイプの基礎方程式を打ちたてようとした。量子跳躍が波動方程式となじまないからだったかもしれない。もともとのシュレーディンガー方程式はもちろん波動方程式だったのだが…彼が打ち立てた新たな量子力学の方程式はなんと…
二本の双子の関係にある拡散方程式で記述されていたのであった。1931年に彼が提出した論文に書かれたこの基礎方程式は、彼自身によってさえ興味が失われ、そして誰も顧みなくなった。あまりにも波動方程式が成功していたのになんで変な連立拡散方程式を使わなくてはいけない義理があるんだろう?だいたい力学的なイメージが変じゃないのか?この方向性で物理学が発展するのか?迷いがあったに違いない。袋小路を感じたのかもしれない。
その後、数学的な吟味によって、この連立拡散方程式は、波動方程式と同等であることがわかったという。なんという奇跡であることか!こんな美しくも不可思議なことがあるだろうか!神の芸術的な指先はなんという不思議な筆でもってわれわれの宇宙を描き出していることだろう!

ひとつだけ印象深いことがある。この連立拡散方程式から理論物理学的にえられる、とある物理学的描像に私はものすごく惹かれてやまないのだ。方程式の解からは、電子が、ライトコーンの外側に飛び出てしまうことがあるのだ。しかしながら量子の世界にとっては充分に長い時間、そして人間にとっては刹那の間に、その電子は量子的なジャンプをくりかえして故郷のライトコーンに捕まってしまう。そしてひとたびつかまるや、二度と外の世界にはいけなくなるのだ。
こうした知見は、数学的に同等である波動方程式からは今までけして出てこなかったことだ。なんということ!

この宇宙にどれほどの知的生命体の種が存在するのかまったく予想もつかないが、地球人がファーストコンタクトをもった宇宙人の量子物理学の基礎方程式が、連立拡散方程式であるかもしれない。われわれの宇宙像とは全く別の物理像をたずさえて彼らはやってくるかもしれない。我々はおおいに学ぶことになるかもしれないのだ。そして彼らは彼らなりに、地球の物理学のエキセントリックさにあきれかえり、知的な刺激をうけて大変に喜ぶかもしれない。

奇跡はまだ遠い未来かもしれない…
だけれども、私はこういった変なことがらを、日記に書かざるをえないほどに、大きな幸せを感じるのだ。存外奇跡が近いことを願いつつ。

神よ! あなたは日々奇跡を行っています!