マーチン・ガードナーのパーティー上演用パズル(2)

書きます

nucさんにウケタ?ようなので以下の続きを書きます。
http://d.hatena.ne.jp/hoshikuzu/20070910#p4

パーティーでの演目

マスターであるあなたはパーティーでふたりの助手(アリスとボブ)とともに壇上にあがります。壇上の両サイドには向かい合った壁があり、それぞれの壁の前に壁に向かって助手を1名づつ立たせます。マスターと助手の二人は互いにお互いの姿が見えません。また全員は声を発することもできません。マスターと助手たちはお互いの行動について何も知らされません。マスターであるあなたは壇上中央に立ちます。マスター観客のみんなはそんな3人を見ています。これから壇上の3名は何回か試行を行い、その結果を披露して観客からブラボーの拍手をもらうことが目的となります。

それぞれの助手の目の前にある壁にはルーレットがあります。矢印をぐるぐる回すと、やがて矢印は1か2か3のどれかを指し示すように止まります。どの数字のところで止まるかは等確率とします。

マスターであるあなたには、充分な数のカードと、カードに書き込むためのペンとが与えられます。

1回の試行につき、マスターはカードに情報を書き込み、助手のそれぞれに1枚づつカードを渡すことができます。カード以外にマスターであるあなたは助手たちにいかなる指示事項も伝達してはいけません。カードを受け取った助手は、目の前にある壁のルーレットをまわします。そして、出た目の数字と、受け取ったカードに書かれている指示事項に従って、右手ないし左手のどちらか一方のみを挙手します。以上が1回の試行です。

充分な数の試行を繰り返した後、3人組が観客からブラボーをもらえる条件は以下の通りです。

  1. 助手の二人のルーレットが同じ数字を示した時には、二人が挙手した手は同じ側でなくてはいけません。アリスが右手をあげたならボブも右手をあげなければいけません。左手でも同じです。
  2. ルーレットが異なる数字をひきあてたならば、助手の二人の挙手は同じ側の手でも良いし異なる側の手でも良いです。右-右、右-左、左-右、左-左、どれでも結構です。
  3. 全部の試行を繰り返した後、二人の助手たちの挙手が同じ側であった回数と異なる側である回数が同じであるように確率的に期待できる戦術をマスターであるあなたが取ったのだと観客に納得させることが必要です。

はたしてマスターはどのような戦術を取れば良いのでしょう。

以上が、マーチン・ガードナーが提唱した、パーティー用のダシモノです。 戦術自体を考えることがヒトツのパズルとなっています。 むろん、私も考え抜きましたし、一定の結論も得ました。あうあうあう。不本意な結論ですが。

デイヴィッド・マーミンによる回答の概要

マーミンは、いかなる戦術を使っても、同じ手が挙がる確率が、5/9を超えてしまうことを主張しました。私も不承不承ながら納得しました。詳細は書きません。パズルですから。

マーチン・ガードナーのパズルの発想元

デイヴィッド・マーミンは、上記のパーティー用のダシモノと等価な、量子力学系の思考実験を提出しました。この思考実験を聞いたガードナーが、パーティー用のダシモノを提唱したわけです。

マーミンは概略、次のような実験を考えました。

まずスピンが0である複合粒子を崩壊させて、2個のスピン1/2の粒子を互いに反対側に飛ばすことが可能でしょう。この系が、パズルでいうところのマスターです。2個の粒子がカードにあたります。2個のスピン1/2の粒子はスピン一重項です。エンタングルメントな状態ですね。

それぞれの粒子が(電子だとわかりやすいですね)行き着く先のアリス側とボブ側にはそれぞれ、シュテルン-ゲルラッハの実験装置が待ち受けていて、スピンの向きを測定します。当然のことながら、装置が同じ角度で設定されていれば、アリスが上向きのスピンを測定したらボブは下向きのスピンを測定します。ここで肝要なことは、今度の実験ではシュテルン-ゲルラッハの実験装置は、3つの方向の中から、試行ごとにランダムに選ばれた軸に向けられるというところです。またアリス側とボブ側とでは独立に方向が選ばれます。0度と120度と240度とです。この系が、ルーレットと助手に相当します。ただし、別途ランプを用意しておき、アリス側でスピンが上向きなら右側の赤ランプが、下向きならば左側の緑ランプが点灯するものとし、ボブ側では、スピンが上向きなら左側の緑ランプが、下向きならば右側の赤ランプが点灯するものとします。 アリスが赤ランプならボブも赤ランプ、アリスが緑ランプならボブもまた緑タンプが、それぞれ点灯します。ランプの色でもって右手をあげたか左手をあげたかの代用となっているわけです。

マーミンが量子力学の基本方程式からすぐに帰結するように、上記の実験系では、アリスとボブのそれぞれの装置が同じ向きであったときには確実に同じ色のランプが点灯しますし、また、試行を繰り返せば、同色のランプが点灯する確率と異色のランプが点灯する確率は等しく、それぞれ1/2となります。このへん、詳しいことは物理学を学んだ人が誰か書いてくれると嬉しいのですが、絶対に正しいことだけは保障できます。さもなきゃノーベル賞受賞者が出てきます。

量子力学でいうベルの定理ないしベルの不等式

上のデモンストレーションでわかる通り、量子系では厳密な意味で1/2の確率にもっていけるのに、古典系では5/9の確率以下に絞り込めないところが、ベルの不等式の示すところであります。
パーティーゲームでいえば、量子の世界をエミュレートしようとするならば、アリスとボブがテレパシストで、マスターが渡すカードには何も書かれていない状況を考えると良いのかもしれません。マスターの戦術もくそもないわけで。マスターが助手に渡すカードにはあらかじめ右手をあげろとか左手をあげろとか書いてないわけですね。アリスとボブのあいだに不可思議ななんらかの関わりがないといけないことになります。そうでないとブラボーの喝采をもらえないわけです。マスターがカードに何を書いても無駄だというところが、さんざん物理学者さんたちのあいだで論議された「局所的な隠れた変数」の無意味さを訴えるところですね。アインシュタインが存命中ならばどのように考えることでしょう(ため息)

ビーズゲーム

同様なゲームとしてビーズゲームとかいうのがあるらしいのですが、私はまだ、充分に把握できていません。しばらくハマりそうです。(苦笑)

以上は一挙に書いて推敲していませんので適宜解釈しながら

おつきあいねがいます。すみません。

余談:人狼ゲームと物理学者

シュテルンとゲルラッハのファーストネームを最近知ったのですが、それぞれ、オットーとヴァルターなんですね。ninjinさんの人狼ゲームのキャラの名前なので・・・まさかninjinさん、そのことを意識して・・・などとツマラナイ妄想を一瞬考えたのでした。(苦笑)